‘合気’
丹田について その1
合気関連の記事で分かりにくい方もおられるかも知れませんので、「丹田」について書いてみたいと思います。
一般的に言われる丹田は、下腹部に位置するツボの名前を指します。
武術に限らず、多くの健康法や作法で重要視される場所ですが、どのように捉えるかによって動作の質は大きく変わります。
よく、動作の解説で「下腹部に力を込めて」とか、「腹圧を高めながら」といった表現を見かけます。
言葉通りに、腹筋に力を入れて腹部を固めてしまうと、それ以上は息を吸えなくなります。
実際に行なってみて、呼吸が通りにくくなる方法は、身体にとって不自然な動作だと考えます。
合気観照塾では、丹田を固定された点ではなく、「西江水」という捉え方でその働きを学んでいます。
稽古に参加し始めた頃、身体の力を発揮する上で骨盤の動きがいかに大切かを知り、そこを起点とするように動作を練習していました。
けれども、技を掛けておられる師匠の丹田を初めて触らせて頂いた時、もっと深いところから力が生まれていることに気付きました。
下腹部の奥に球のような存在を感じ、その働きが結果として骨盤など全身の動きに表れているように感じました。
それ以来、自分の身体の内部を意識しながら稽古するようになりました。
骨盤が締まるバランスで息を吐き、締めをキープしたまま息を吸って身体を張ることで、下腹部を充実させます。
そこから、さらに呼吸を吸い上げて、川の水が末端まで行き渡るように、四肢の先まで伝えます。
脱力して息を吐くことで、元の場所へ戻っていき、力は滞ることなく身体を循環します。
収束する中心を持ちながらも、一点に固執せずに、視野を全体に広げることの大切さを学びます。
丹田は、その時の身体のバランスに合わせて広がり、状況に応じて自由に変化できるようにしておくことが重要になります。
丹田の働きによって、自分の中心を保ったまま、相手の力を吸収して返したり、体勢を転じて受け流したり出来ます。
身体の中心に丹田が在り、身体の内側にその通り道が張り巡らされています。
「西江水」が働く身体が出来ていれば、全身のどこを押さえられたとしても、合気を掛けられるということになります。
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稽古メモ その3
【意念】
近付いてくる相手の距離感も含めて息を吐き、相手の後方の空間まで掬い上げるように息を吸う
相手の掴み手に対して、全体がふわっと膨らむように緊張させずに張り、真剣の鋭さを共存させて方向性を持たす
木刀を持っているときも、模擬刀や真剣をイメージすることで、伝わる力の細さや鋭さが変化する
能動的な動作や意識を先行させず、相手の中を観察する受動的な働きで、全体を把握しながら頚まで繋げる
指の先へ意識が通っていると、実際に触れていなくても、触れられているような感覚が伝わる
両目を寄せることで軸を細くして、後頭部で像を結ぶように目からも相手を吸い込む
相手に触れる前から吸い込んで力や意識の流れを作り、お互いの間で交流させることで相手に返す
相手の後方まで意識して息を吸い、イメージした通り道へ伝わるように、片足から反対側の手へと通して、遠くから力を伝達する
呼吸を相手の頚の向こう側まで通し、浮かせた両手から漏斗状に下ろすことで、中央へ集めて下まで落とす
中指で相手の瘂門の向こう側を突き刺して、その距離感を維持したまま、力を遠くから通して転ばせる
意念によって、後方の空間や地面の下まで呼吸の届く範囲を広げ、身体の幅より大きな落差を産み出す
身体を診る場合も、一ヶ所に拘らず、意識を広げて全体をうすらぼんやりと観ておく
頭の後ろに時計盤をイメージして、指定した時刻の方向に目を向けてもらうことで、目線や意識も手伝って繋がっていく
【総合】
石を置いても隙間から水が流れていくように、相手の止めようとする働き掛けにも逆らわず、新しい流れで動き続ければ結果として技になる
発想を固めずにその瞬間の感覚を受け取り、それに応じてどちらにも動くことができ、どこでも止められる身体を創っておく
芯を残したまま自分を弛め続けることで、最初から最後まで相手が力の入らない状態のまま崩す
相手をどうこうしようとせず、自分の力が抜けるようにセンタリングしている内に、相手の身体が繋がり、動けば崩せる状態まで導ける
相手と一致して初めて伸びる方向が現れ、どちらに転ばせるかは自分ではなく相手が決める
身勢が出来ると、物打ちに加えられた力が丹田と直結し、押されても引かれても、いつでも返せる
刀棒で相手の両腕に付け、一方から相手の中心に合わせ、その攻めを維持したまま、更にもう一方から入れる
どういう手技をするという形や、どう変えたいという欲を捨て、相手に合わせて自分を弛めていくことが施術になる
相手の後方から両肩に手を沿わせ、ただ相手の身体に起こっている揺れに付いていく
だんだんお互いの振動が増幅し合い、気持ち良く揺れながら、身体を弛めることが出来る
相手の持ち方によって入れるか抜くかは変わり、自分から働き掛けるのではなく、相手の働き掛けを受け入れ、その反作用で動く
そうした施術の風景も、主と客が入れ替われば、肩甲骨から相手に合気を通す技になる
先生の一人合気は、本当に相手が居るかのように技に掛かっておられた
自分の身体に合気が掛かっていく感覚があるからこそ、相手に合気を掛けられる
その時々の感覚と表れた結果の検証を積み重ねていくことで初めて、感性を深めていける
ゼロになったところから力を抜いたまま動ける方向に動くと、相手が転ぶ【技には形が無い】
今回、「稽古メモ」としてアップした記事は、今年の1月から4月の記録を元にしており、これでひとまず終了です。
また、メモが溜まってきたら、まとめてアップしたいと思います。
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稽古メモ その2
【体内操作】
片足を着いたところから、重心を前方に移動しながら股関節の圧を溜め、体幹の向きを合わせて、反対側の股関節をフリーにすることで引き寄せる
片側の股関節を解放することで、浮かせた脚と目線と体幹の向きを一致させて切り替え、蹴るのではなく交互に弛めることで前進する
下肢の陰経を後方へ移し替えて膀胱経へ繋げ、左右の経路を途切れることなく通していくことで歩く
両手を引き分けて自分の緩みを取ることで、相手の左右の手の内を取り、中心と繋がった瞬間を逃さずに進む
後頭骨を浮かせて頭部の高度を保ち、そこから下をプラプラにして、どこをどう持たれても自由に形を変えられる状態で待つ
複雑な形状のルービックキューブを解くように、両手でバランスを変えている内に、頚と繋がり、力が抜ける位置に来る
お互いが釣り合ったところから、弛めることで不均衡を作り出し、自分の自由度を高めながら相手を崩す
頚を伸ばして後頭部の一点を残したまま後は相手に預けるように力を抜き、自分の身体のバランスの変化に付いていく
肘や肩や胸の力を順に抜いて、相手とぶつかる場所を無くしていくことで、軸を細くして動く
背部を通して弛めた流れを下肢後面にまで繋げ、後方からの伸びで自分の体幹と相手を浮かせる
浮かせたところからずらして相手の重心を崩し、崖っぷちの位置から仙腸関節の切り返しで後押しして転ばせる
中心からの伸びを五指それぞれに時間差で伝え、回転する支点を変え続けることで相手を崩す
相手の弛んでいく流れに沿って、自分を弛め続けることで、どこもぶつからないように重みを地面まで落とす
下肢の張りと、上肢の引き分けを一致させて、両手と刀との間の緩みを取って一体としておく
木刀の柄を思い切り握ったところから、手の平の皮膚が自由に動かせるように弛め、横隔膜より上の高さで構える
体幹の動きを、手では無く、肘でコントロールしながら廻刀し、常に両肘の関係性を保ちながら動く
刀を当てて終わりではなく、廻刀して下ろした刀が、身体の伸びによって相手の中心に伝わる一点に付けられるように稽古する
真っ直ぐ構えていても、相手の持ち手に沿って弛めていくことで、刀の傾く流れが起こり、捩り込みの動きが自然に生まれることを感じられた
相手の手の内に逆らわずに弛めていくことで刃筋が生じ、そのまま進むと相手を転ばせられることを体験できた
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稽古メモ その1
毎週の合気の稽古に参加した後、自分用に覚え書きを残しています。
今回は、最近のメモの中から、「呼吸」に関係の深そうなものを抜粋して掲載します。
【呼吸】
下肢内側を通って呼吸が吸い上がり、肋骨が締まり頚が伸びる姿勢で、触れる前から上肢を浮かせ、吸い込める前提を作っておく
相手の負荷を足元まで丁寧に吸い込み、そこから経路を逆に伝えて吸い上げ、相手の頚まで通していく
骨盤を恥骨が寄るバランスで締めて内圧を高め、大腿中央部を張って、会陰から吸い上げる
下肢の陰経に張りが生まれ、肋骨の内側を上り、腕に伝わり、手部が浮くところまで吸い上がるよう、呼吸の到着を待つ
上肢帯を浮かせた状態で待ち、相手の手の内でも浮かせたまま弛めることで、緊張や重みといった拠り所を無くす
前腕を掴まれた状態から、肩や肘を弛めて相手の手の内に馴染ませ、指先まで呼吸が通るバランスで手を開く
手の形を作るのではなく、吸い込みに伴う脱力と、指先までの吸気を、相手との接点に合わせて行うことで形が生まれる
腕の上げ下げではなく、中の浮沈子の動きで、自分の手の位置を操作し、相手を誘導する
骨盤の立て替えと中央での呼吸の上下によって、四肢のバランスを変えながら、常に中心を保ったまま動く
吸って弛めて吐く流れと全身を一致させて自分を一体として、軸を細くし、足を運び、重心を移し、指先まで力を伝える
相手が息を吐けるように脱力して、一緒に息を吸える深さまで吸い込みを掛ける
相手の重みを吸い込んだ流れが途切れることなく、循環するように吸い上げて離陸する
お互いの吸息の頂点から、先に自分は弛めて息を吐ける状態にして、相手が落ちる位置にずらす
自分が息を吐ける位置に腕を上げて吸い込み、指先まで息が通るように吸い上げ、常に呼吸が詰まらないようにバランスを変えられると技になる
短刀を大腿の上に立てたところから吸って浮かせると、そちらに引かれて緊張が抜け、弛めると境界が無くなるように付き、吐くと沈んで入ってくる【付ける・入れる・抜く】
軸の伸びと共に、後頚部と前腕の間に張りを創って、身体の絞りと前後の張力の高まりによって抜刀する
左手の小指側が吸息で伸びると剣先が上がり、弛めると剣先が下がり、呼吸によって刀の上げ下げをコントロールできる
吸って刀を浮かせ、さらに吸って上に上げ、弛めたときのバランスの変化によって、剣が下りて足が踏み出される
刃の反りに合わせて呼吸を通し、切っ先まで吸い上がっていく力を同調させて、相手を浮かす
上肢尺側を通して木刀の重みを下から浮かせられると、上肢を吊ったまま、中心の動きを伝達できる
柄を握っていても、刀を通して呼吸が伝わっていくと、腕を持たれたときと同様に技が掛かる。【剣術と合気の繋がり】
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合気の三本柱
私は、およそ10年ほど前から、合気観照塾という道場で合気を学んでいます。
合気の稽古を通して自分を見つめ直し、呼吸・体内操作・意念という三本柱で身体を創っています。
【呼吸】
私達の身体は、呼吸と共に緊張と弛緩を繰り返しています。
それは、肺が伸縮するという解剖生理学の説明ではなく、心身に行き渡るもっと大きな働きを指します。
力を入れるときに掛け声を発したり、驚いたときに息を吸ったり、ホッとしたときに息を吐いたりします。
呼吸は動作や感情と深く関わっており、呼吸をベースに身体を構築していくことで、自然に備わった働きを存分に活かすことが出来ます。
そして、呼吸によって自らの心身をコントロールできる状態にあると、相手の呼吸を誘導することも可能になり、それが合気を使った技となります。
【体内操作】
私達の身体には、意識できていない場所、動かせていない場所がたくさんあります。
呼吸に関係の深い筋は身体の深層にあり、深層にある筋を自在に動かせるようになって初めて、中心からの力が生じます。
浅層の筋は伸び縮みすることで動作における張力となり、自分の身体の状態や外界の状況を伝えてくれるセンサーとしても働きます。
縮めて固まった場所があると、感覚を鈍らせ、動きを妨げる要因になります。
筋にはそれぞれに適した役割があり、全体が協調し、分担がきちんと行われることで、大きな力を発揮し、細やかな動きを実現できます。
【意念】
呼吸も体内操作も、自分の認識できている範囲でしか、行なうことは出来ません。
逆に、意識が及んでいる範囲であれば、意識するだけで呼吸や体内操作によって起こる働きと同様の力を導くことも出来ます。
意念はイメージの使い方次第で、現実の世界に縛られることなく無限に広がります。
自分の頭骸骨に内側から色を塗ったり、月に届くほどに軸を伸ばしたり、想像できることなら何でも有りで、それは現実の身体に影響を与えます。
また、意念は、自分の身体の内に及ぼす働きだけでなく、外向きに力を発する場合にも重要になり、意念の精度によって相手に働き掛ける力は大きく変わります。
それらは、別々に働くものではなく密接に結び付いており、果たそうとする目的によって必要とされる割合が変わります。
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合気の学び その3
合気道を通して学んだ体の使い方は、医療の世界においても大いに活かされることを実感しています。
例えば、現代医学の運動学では、筋を縮める働きによって、動作が起こるという原則があります。
そうした考え方を前提として、体の状態が判断され、マッサージや筋力トレーニングやストレッチといった治療が行われています。
けれども、患者さんが動作をする上での発想が変わらなければ、また同じ場所に負担を掛けたり、別の部位の痛みを引き起こすことになりかねません。
同じ動きの中で善し悪しを判断するのではなく、これしかないと思い込んでいる動作の発想を変えて可能性を広げていくほうが、患者さんの今後の生活にとって遥かに有用ではないかと思います。
合気の技では、体の力を抜くことによって動作が始まり、筋が伸びていくことで動きが続いていきます。
それは、力を入れて動作を行なう身体観とは全く別の発想で、そうした使い方もあり得るという観点は、身体を広い視野で診ていく上で重要ではないかと思います。
周りをよく見渡せば、古今東西で人体に関する深い洞察が行われ、様々な形で道標が遺されています。
そのような素晴らしい遺産が、教育や制度によって科学という枠に押し込められることで、覆い隠されてしまっているように感じます。
そうした枠に囚われず、合気を通して学ばせて頂いていることを、お客様の健康のために役立てていきたいと思います。
O
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合気の学び その2
合気の技では、相手を別物ではなく、自分の一部として捉えます。
相手の都合を受け入れるように力を抜くことで、一体として息を吐き、両者が脱力した状態に近付けます。
自分の中心を保ちながら、全体のバランスを変えることで、結果として相手が伸び上がっていくと合気上げになります。
お互いが一致した状態になると、相手の滞っている場所を感じられます。
それは、合気の技では相手のバランスを崩す弱点となり、施術では相手を弛める手掛かりとなります。
相手は人に限ったものではなく、道具を用いた場合でも同様に伝わることを学びます。
剣術では刀を使って身を守り、鍼術では鍼を持って治療します。
道具も自分の一部として扱うことで、その特徴を活かして力を発揮することが出来ます。
心や体の緊張は、相手との間に壁を作り、境界を生み出す要因となります。
自分という最小単位で心身のバランスを取れなければ、相手を含めたより広い繋がりには対応できないことを実感しています。
合気の学びが、武術に留まらず、思想や哲学にも通じる深みを内包しているように感じるのは、生命の持つ根源的な働きに根差したものだからではないかと考えます。
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合気の学び その1
合気の稽古をすることは、呼吸や動作の学びと同時に、発想を変えることであるように感じます。
合気道には、合気上げという技があります。
相手に両腕を押さえられた状態から、バランスを崩して転ばせます。
合気道を学び始めた頃は、肘を曲げたり、腕を上げたりというように、筋力で相手を動かそうとします。
けれども、相手の体重を腕の力で上げるのは無理だということに気付き、自分の身体に目を向けるようになります。
そして、呼吸の力を活かしたり、全身を協調して働かせることを学びます。
その過程で身体が変わる度に、身体観が変化していきます。
合気上げを掛ける側だけを主体として見ると、一方がもう一方を持ち上げているように見えます。
そうしたイメージの元、技を掛けようとすると、自分の力だけで相手を動かす必要があります。
自分の世界との関わり方に基づいて、動作が生まれます。
つまり、発想が変わらなければ、いつまで経っても、同じ動作を繰り返してしまうということが分かります。
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