‘健康’
目に見えないもの その2
そうした働きは、手に限ったものではなく、身体のあらゆる場所に見られます。
例えば、眼は「ものを見る」という受動的な役目をする感覚器と考えられていますが、目に見えない情報が出入りする通り道でもあることを学びます。
肺は、「酸素と二酸化炭素のガス交換」という役割だけでなく、呼吸によって身体の様々な働きと深く関わっていることを体感します。
空気の出入りに伴って肺が膨らんだり縮んだりするのと同様の感覚で、呼吸で全身を満たしたり、一箇所に集めたり、目指す経路に通したり出来ることを知ります。
合気道の稽古の中で、そうした身体に備わった働きを存分に発揮できると、自分でも驚くほど大きな力が生まれることを体験します。
東洋医学の経絡には、「肺経」や「大腸経」といったように、内臓と同じ名前が付いています。
正確には、江戸時代に蘭学が伝わった際に、日本語には無かった個々の臓器の名前を、それ以前から使用されていた経絡から転用して翻訳したという歴史があります。
経絡の名前は本来、内臓そのものの「形」を意味するのではなく、その「働き」によって付けられています。
例えば、肺経に滞りがある場合でも、必ずしも肺の実質に問題があるという訳ではなく、関係の深い働きに偏りが生じていると考えられます。
その働きは、肉体のみならず、感情や意識や取り巻く環境など、当人に携わるあらゆる要素を含みます。
いずれかの経絡が滞っていると、円滑な活動を妨げる原因になり、それが様々な症状として現れます。
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目に見えないもの その1
現代の科学は、客観的に証明できる研究や実験を積み重ねることで発展してきました。
けれども、科学的な視点を通して見ているのは、世界の一面ではないかと思うことがあります。
私は、合気道や呼吸法の稽古を通して、「形」としては目に見えないものに触れ、その大切さを感じています。
これから数回に分けて、それらの一端を紹介させて頂きたいと思います。
合気道には、相手に自分の手首より上を掴まれた状態で、相手を転ばせる技があります。
握られている自分の腕の力を抜いて、相手から受けた力を返すとき、手に空中を掴むような動きが起こります。
形の上で見ると、実際に相手と接触していない手の動きは関係ないように思えますが、それによって技が効くか否かが左右されます。
技を受ける側の立場では、自分が相手の腕を掴んでいるはずなのに、まるで相手に掴まれているかのような印象を抱きます。
つまり、掴むという行為の本質は、実際に手の中に掴もうとする対象を握っているかという「形」ではなく、その動作に至る「働き」にあると言えます。
稽古を通じて、いくら「形」だけ真似ても、「働き」が伴っていなければ全く力が伝わらないことを、たびたび経験します。
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腰の痛みと猫背
60代の女性のお客様です。
腰部に痛みがあり、特に朝起きたときがつらいと言われていました。
背部が丸くなっており、壁に踵を付けて立って頂くと、頭部が壁から大きく離れていました。
仰向けで寝ると、腰の痛みが現れ、高めの枕を入れないと首が反って顎が上がった姿勢になっていました。
猫背になっていることは自覚されており、仕事で座っているときも背中を伸ばすように意識をしたり、家では腹筋や背筋を鍛えるトレーニングをされているとのことでした。
横向きで体幹の緊張を弛めた後、仰向けで背骨の下に半円の枕を入れて、呼吸をして頂いたり、腕や脚の力が抜けるように施術をさせて頂きました。
脱力によって腕が重みで下りてくると、肩甲骨が中央に寄って胸部も開き、頭部の着き方も変わってきました。
無理に背筋を伸ばそうとしなくても、余分な力が抜けると、背中が伸びていくことを実感して頂けたようでした。
最後に、座っている時の脚の着きかたや、呼吸でからだを伸ばす体操などをアドバイスさせて頂きました。
当店では、筋肉を縮めるばかりでなく、伸び伸びと働けるからだを創っていくお手伝いをさせて頂いています。
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医療の在り方 その3
偶然とは考えにくいような幸運なタイミングで、偶然が訪れることを経験することがあります。
そんなとき、国でも職場でも特定の誰かでもなく、もっと大きな流れのような、見えない力に助けてもらっているように想います。
そして、そうした偶然の積み重ねや、周りの方々の助けのお陰で、今の自分があることを感じます。
「今」の健康の有り難さを感じ、からだからのサインを聞き逃さないように心掛けていけば、いくつになってもその歳に応じた健康を維持できるのではないかと思っています。
誰に保証してもらった訳でもありませんが、全ての人と同じように、私自身も自然の摂理によって生かされていることを実感しているからです。
それは、世の中がどのように変わっても、自分もそれに応じて生きていけるだろうという安心感にも通じるのではないかと思います。
将来を考えることは必要ですが、先が分からないことを不安と捉えるより愉しみとして、今できることを精一杯するほうが、毎日を楽しく過ごせるのではないかと思います。
そして、からだに不安や悩みを抱えるお客様を健康面からサポートすることで、そのお手伝いをしていきたいと思っています。
現代の医学は、科学技術の導入や遺伝子の研究が進み、ますます自然の摂理から離れる方向に進もうとしています。
それは、多くの不安を生み出し、新しい病を引き起こすのではないかと危惧しています。
お客様の健康に関わる仕事をさせていただく以上、医療のより良い在り方についても考え続けていきたいと思っています。
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医療の在り方 その2
健康診断や予防接種を受けることで病気のリスクが減り、「生活習慣」を正すことで多くの病を予防できると言われています。
けれども現実には、毎日、大勢の人が病院に訪れ、たくさんの薬が処方され、医療費は年々増え続けています。
「血圧が高いと脳や心臓の重病に繋がる」「骨密度が下がると骨折のリスクが高まり寝たきりになる」「太ももの筋肉を鍛えないと膝に負担が掛かって関節が変形する」といった起こりうる将来の心配をあちこちで耳にします。
そうした需要に応じて、病院で薬が処方され、店でサプリメントが売られ、テレビでは健康に関する番組が流れます。
それらが本当に必要な人もいると思いますが、予防が不要であったり、やり方が合っていなければ、新たな不調を呼び起こしてしまう可能性もあります。
「健康」の基準は他の誰に決められるものではなく、本来、自分自身が最も近しい存在であるはずです。
しかし、現代社会では、生活する場や口にする飲食物、自分の健康でさえ、自らが把握できる範囲から離れてしまっていることがあります。
現代における「不安」の多くは、それらを委ねている国に対して、企業に対して、医療に対して、あるいは他人に対しての信頼が揺らいでいるところが大きいような気がします。
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医療の在り方 その1
不景気や少子化といった現代社会の問題が語られるとき、「先行きに不安があるから」ということがよく理由に挙げられます。
そうした話を聞き、問題の本質はどこにあるのか考えることがあります。
将来どうなるか分からないということで言えば、今の時代に限った話ではないように思えるからです。
過去の歴史を見ても、各時代ごとに為政者は変わり、大きな天災や疫病や戦争がたびたび起こっています。
資本主義の経済は発展し続け、国によって老後の生活が保証され、誰もが安定した生涯を過ごせるというのは、近代になって作られた理想なのではないかと感じます。
将来にしても経済にしても健康にしても、「先が分からないこと」をネガティブに捉えると、不安が伴います。
そうした不安を取り除くために、いつの時代にも形を変えながら、宗教や医療が存在してきたのではないかと思います。
自分や家族の健康に不安を抱くとき、医療によって症状が治ったり、予防できることが、多くの人々を救ってきたのだと思います。
けれども、本来は「希望」となるはずの医療も、進む方向によっては、かえって不安を生み出してしまうこともあるように思います。
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腕の緊張と耳鳴り
60代の男性で、来店された1ヶ月ほど前に、家の中で転倒して左の側頭部をぶつけられたそうです。
しばらくの間、左耳が難聴になり、時間の経過と共に音は聞こえるようになったものの、頭痛と耳鳴りが残っており、ずっとジーという低い音が鳴っているのが気になると言われました。
ケガをした後、脳神経外科と耳鼻科に行かれましたが、検査をしても脳や耳に異常は無く、原因は分からないと言われたそうです。
脈を診せていただくと左手の肝と心に当たる場所の脈が弱まっており、腕の後面中央から首の横を通るラインが特に滞っているように見えました。
接触鍼で、腕の経絡の流れを改善するように誘導し、脚やお腹や頭の意識が薄そうな場所を中心に補いました。
また、転ばれる前からと思われますが、円背の傾向が強く、からだに対して頭部の位置がかなり前にあったので、姿勢のアドバイスもさせて頂きました。
次に来店されたとき、翌朝から耳鳴りが軽減して趣味の音楽鑑賞をまた楽しめるようになったと喜んでくださり、四回目にお話を伺ったときには耳鳴りは無くなったと言われました。
検査で原因がはっきり分からなくても、身体のバランスが整えば頭痛や耳鳴りなどの症状が改善することもあります。
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足の爪と股関節痛
50代の女性で、右の股関節が痛むという訴えで来店されました。
下肢の捻れを調整していて、足の指に触れたとき、「実は親指の爪の色がおかしくて…」という話をされました。
靴下を脱いで見せていただくと、親指だけ爪の色が黒っぽく、外反母趾の傾向もみられました。
最初、親指の巻き爪が痛くなって整形外科に行かれ、改善したものの爪の色が気になって皮膚科に通われ、その後、同じ側の股関節が痛くなってきたそうです。
施術後に、立っているときや歩いているときの重心の掛け方をアドバイスさせていただきました。
足の親指がこんなにちゃんと着いている感覚は今まで無かった、と言われました。
普段の体重の掛け方や脚の使い方が、関節の痛みに繋がることもあれば、足の爪の形や色に影響することもあります。
様々なからだの不調は、それぞれ別の原因ではなく、バランスの崩れから関連して起こる場合もあるようです。
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医療の現場 その5
患者さんが皆違うように、医師や柔道整復師も一人一人歩んできた道は違います。
したがって、医療の現場で行われる施術は、本来もっと独自性が生まれて然るべきだと思います。
万人に効果のある治療があるとすれば、それ以外の治療法はとっくに淘汰されているはずです。
国内だけを見ても、「現代医学」の範疇に収まりきらないグレーゾーンがこれだけ存続しているのは、患者さん一人一人に対応するためにはそれだけの多様性が必要とされているからではないかと考えます。
それは、治療するための知識や方法の幅というだけではなく、人と人との繋がりといった根源的な部分に因るところも大きいような気がしています。
誰かが作った枠組みの中からではなく、各々にとっての自己を健康に導いてくれているあらゆる要素から、患者さんの日々に寄り添う医療が生まれてくるではないかと思います。
そうした個々の発展から全体が進歩する方向に転換し、その上で患者さんの負担を減らし選択を増やしていけるような仕組みを作っていくことを理想と考えます。
当店も、一つの選択肢として、選んでくださったお客様のご期待に沿えるよう、全力で応えていきたいと思っています。
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医療の現場 その4
五年ほど前、整形外科の院長の代理で医師の会合に参加したことがあります。
そこでは、多くの医師が、患者さんの症状が「治らない」「治っていない」ことを、危機感をもって語られていました。
そして、評判が良く大勢の患者さんが訪れる病院はどのような特徴があるのか、実例を使って議論されていたのが印象的でした。
整形外科や接骨院の数が増加し、国による医療費の削減が進められる中、保険診療での経営は以前より厳しくなっています。
接骨院では、保険の適用は捻挫や打撲といった外傷が対象となり、一つのケガで診れる期間には制限があります。
施術に対する報酬は一律で決まっているため、多くの患者さんを見なければ経営は成り立たず、一人に掛けられる時間や方法は限られます。
柔道整復師の資格を取得すると、保険診療が行えるという利点を得られる一方で、整体やカイロプラクティックといった民間療法に比べて、開業や経営をする上で法律による多くの制約が生じます。
最近は、院の方針に沿って、保険診療と併せて実費での施術を行なったり、患者さんの自己負担による自由診療のみで経営されている治療院も出てきています。
病院でも、保険診療と自由診療を併用して行う混合診療が認められており、今後、そうした病院も増えてくるものと思われます。
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