時間と感覚 その1
剣術の稽古で、お互いに同じ構えを取り、相手が動き始めるのを見てから動いて競り勝つという技を学びます。
後から下ろした方が、相手の刀の上を取り、有利な立場になるということを不思議に感じていました。
稽古では、身体の様々な部位に意識を移しながら自分の姿勢や動作を観察します。
逆説的になりますが、「股関節を動かそう」とすると、股関節の動きが鈍くなります。
筋を収縮させて一方向に関節を動かすと、動作を続けるために、その筋肉を弛緩させる必要が生じます。
何か動作をするときには一つの関節だけで無く、たくさんの関節が多方向に連続して動きます。
つまり、動かそうとする場所が多いほど、動作を遂行するまでのロスが増えます。
さらに、どこかに意識が集中しているとき、全体としての連動が途切れ、視野が狭くなります。
合気の稽古では、丹田で動くというシンプルな方向を目指して身体を創っています。
股関節も動作の起点では無く、丹田から伝わる力の通り道になります。
全身に意識が行き届きながらも、丹田の動きが損なわれること無く伝わるバランスを目標としています。
丹田の動きは、関節から関節に伝わるのではなく、身体の内側を通っていきます。
動作が大きくても小さくても、早くてもゆっくりでも、自在に力を伝達するためには、繋がりの正確さが要求されます。
アニメのフレーム数が増えるとキャラクターの動きが滑らかに見えるように、末端までの経路を途切れることなく通す必要があります。
身体の動きは常に脳にフィードバックされており、動作の密度は感覚の繊細さと比例します。
同じ一秒でも、伝えられる変化の細やかさや、入ってくる情報の量には個人差があります。